「君はもう大人になってしまった」




お父さんに、「お父さんに彼女ができたらいや?」と言われた。何日か前に。いつも寝る前に布団の中でスマホをいじっているなあとは思っていたんだけど、どうやら彼女が出来ていたらしい。お兄ちゃんによると部屋で夜中、寝る前に電話したりしてるらしい。


わたしはいまお母さんの家にいる。

仕事の支度をしているお母さんの後ろで、座ってる。夜中SPECを見返していて結局寝なかったのでそのまま起きていた為、早朝からタクシードライバーの仕事をするお母さんをお見送りする様な事態になっている。



両親の間には去年の初めぐらいから不穏な空気が漂っていて、お母さんは何年ぐらいかずっと一人で暮らしたいと言ってはいたんだけど、それぐらいからそういうことを言うことが多くなった。本気にはしてなかったけど、本当にそうしたかったみたいだ。夏ぐらいに本当に家を出て行って、9月とかそこらで離婚の手続きをして別れたんだけども、お母さんが置いていった昔のiPhoneの中に知らない男の人との写真が入っていて、他にもLINEのやり取りが残っていて、浮気が発覚した。iCloudが連携されている為使っていないiPhoneの方にも撮った写真が更新されて保存される事をお母さんは知らなかったみたいで、昔のiPhoneにはロックをかけていなかった。


浮気が発覚したお父さんはもう半狂乱状態でお母さんを問い詰めてた。ただでさえ大きい目をもっとギョロギョロさせて、飛び出るぐらい大きい目で怒ってた。わたしはその頃から風俗で働いていたから朝はぐっすりだったんだけれども、あんまりにも大きい声が隣の部屋から聞こえてくるから起きてしまって、泣きじゃくるお母さんとブチ切れるお父さんの間に入ってどうどうどう、って暴れ馬を抑えるみたいにしてた。馬のがマシかもしれない。マシではないか。馬相手のが死ぬ確率高いな。ていうか親の喧嘩仲裁しただけじゃ死なないか。別に死んでもいいんだどさ。



別れて落ち着いてからもずっと被害者ヅラしてたお父さんだけど、わたしがまだ小さい頃お父さんも昔浮気していたらしい。正直、もうどうでもいいけどさ、お父さんまで浮気していたっていう事実がショック過ぎて、それなのにあんなに怒鳴り散らしていた事にも何だか腹が立ってきて、その頃家には帰らないことが多かった。


兄は親の離婚を受け入れなかったらしく、精神安定剤やら睡眠薬やらを酒でちゃんぽんしては暴れてた。ちゃんと大学卒業してわりとエリートコースって感じの職にもつけたのに、仕事を辞めて、それすら親の離婚のせいにしてた。

酒に酔ってはお母さんの愚痴を言ったり殺すだの口走っていた。意味がわからなかった。どうして自分が出来ない事や自分の不安定さを他人のせいにしないと気が済まないんだろう。全部自分のせいじゃん。


お父さんもお兄ちゃんもどうして自分に非があるとは微塵も思わないんだろうか。

口では認めたとしても完全に他人のせいにしているようにしか見えない。くだらなすぎる。そんな事をして何か解決するのか。自分が進めないのを、行き詰まったのを全部人のせいにしてそれでどうにかなるのか。楽な方向に楽な方向に考えてるだけじゃん。そうだよね、被害者は可哀想だねって哀れまれる事しかないもん。そっちのが楽だよね。わたしだってそうだよ。何か問題が起こった時に自分は絶対加害者にならないよう被害者のままでいる。その方が周りはみんなわたしの味方をしてくれる。それを分かってて加害者を悪者にするんだ。わたしもそういうこと、ちゃんと分かってるし、そういうことをして生きてきたから分かる。そういう汚くて醜くて愚かな気持ちすごく分かる。でも本当に汚い。醜い。見てられない。



お母さんは何も知らないのに、お父さんが浮気してた事も知らないのに、今でも信じているのに、お父さんはそれを平然と隠したままお母さんの罪を責める。


お父さんに新しい彼女が出来たこと、お母さんは知らない。言うつもりもないけど。


あんなに怒っていたのにすぐ鞍替え出来るって何なんだろう。愛って何なんだろう。執着って何なんだろう。すごく馬鹿みたいだ。

妹は違うけど、結局実家に残ったみんなで集結してお母さんを悪者にしてそれで生きて言ってるようにしか見えない。わたしは、お母さんの自分勝手な気持ちだけで離婚したと思ってたから、お母さんの事を好きな気持ちは絶対に変わらないけど、この件に関してはお父さんの味方でいようと思ってた。でもお父さんの味方も今はしたくない。結局誰が悪かったの。誰も悪くないんだよね。誰も悪くないのに誰かをみんな責めるんだよね。気持ち悪い。なんで?そうしないと生きていけないの?ダメなの?


どんなに小さな頃の思い出が綺麗なものだったとしてもわたしにはもう綺麗なものには思えない。仲良しで円満で素敵な夫婦なんて、家族なんて幻想なのかも。そんなの。何にも信じられないし何にも好きになりたくないし好きでいたくない。


細かく何がどうとかこうとか詳細を説明するのは難しいんだけど、すごい嫌な気持ちだ。永遠なんてないとか、絶対なんてないとはよく言うけども、本当にそうなんだな。永遠にこの時間が続くとかそういう縛りって死ぬほど怖いけど、永遠は無いっていうのもまた同じくらい怖いな。どんなに楽しくてもしあわせでもいつか終わりが来るんでしょ。終わりが来るならあっても無くても同じなんじゃないかな。同じじゃないのかな、それって。


早く一人になりたい。もう少し頑張ればよかった。自分の限界なんて無視すればよかった。あそこでずっと頑張っていればよかった。



わたしは結局どうしたいんだろう。

とりあえずカツカレー食べたい。

無限に飯食える。