煙が目に染みるよ 苦くて黒く染まるよ




元彼がこの前夢に出てきた。


きみは結構なヘビースモーカーで、煙草を吸ってないと落ち着かないみたいで、ホテルでもカラオケでも居酒屋でも、いつも一緒に煙草を吸ってた。


待ち合わせ場所も喫煙所で、きみが歩いてくる姿や待っている姿を見てはぁーーわたしの彼氏かっこいいわあーーって、ちょっと優越感に浸っていた。かっこよかったから。大丈夫?知らない女の人に逆ナンとかされてない?って心配してた。お母さんかよ。お母さんじゃねえよ。彼氏28だよ。わたし21だったよ。


二人で煙草を吸いながらどこ行こっか?どうしよっか?って話して、どちらからともなく手を繋いでぶらぶら歩いて、そんな時間が幸せだった。



彼氏が出来た時期、わたしは相当元気なヤリマンだったのでいろんな男の人とデートしまくっていた。その頃はそんなんでも割と純粋だったから、自分のことを大事にしてくれる人と付き合いたいし、初めてのデートでホテル行くような奴なんて論外って思ってたから、どんなにいいなあと思っていても初デートで相手を見定めてコイツ微妙だなって思ったらホテル直行ワンナイトラブはい終了って感じだった。


その時のがなんというか自分を大切にしていた感はあるなあ。いや、いつでも自分のことは可愛いんだけどさ。自分のことはとんでもなく嫌いだけども。結局自分だから、怠けたいしそれでも肯定してあげたいし、自分が自分の味方にならないと落ちていく一方だから、そうすることが生きていく手段と言えばそうなのだと思う。正しいことではないし、肯定すらしたくないんだけど。ていうか肯定できる部分無いし、よく考えてみたら自分のこと否定しまくりなんだけど、いや、否定しまくりだったわ。可愛いは可愛い。だって傷つきたくないもんね。


元彼とはその時期に風俗で出会って、ラインでのやりとりも頻繁にしてて、よくデートしてて。ラインの文面からもああ好きでいてくれてるんだなあというのがすごく伝わってきて、デートしても付き合うまでは絶対にホテルになんて誘ってこなかったし、手を繋ぐのもわたしが「よくふらふらしちゃうから友達が手繋いでくれるんだ」って言ったら「じゃあ手繋ぐ?」って手出してくれて、それて初めて手繋いだし。あ、あれですよ。全然フリとかじゃないんで!マジで!純粋に!!


多分この人大切にしてくれるだろうなと思って、その時遊んでた他の男の子全部切って彼に絞った。



わたしはさ、初めてのホテルも、初めてのセックスも、全部好きな人とじゃなかったからさ、そういう行為に関して気持ちいいという感情はあっても幸せだなんて思ったこと一度も無くて、きみと付き合って初めて好きな人と体を重ねて、めちゃくちゃ嬉しくて涙が止まらなかった。セックスして泣いてる女、マジでホントにドン引きされるなあと思ったんだけど、きみはすごく優しくて、いつでもすごく優しくて、「なんで泣いてるの?」ってちょっと困ったように聞いてきた。「好きな人としたの初めてだったから」って言ったら、すきだよ、すきだよ、って何度も言ってくれた。


ああ、こんな幸せな事がこの世にあったんだなあと思った。この人に出会う為に今まで悲しかったんだな、辛かったんだなと思った。知らないおじさんの肌の感触なんてクソほどどうでもいいなと思った。きみがこうやってわたしのことを抱きしめてたくさんキスして俺のものだって言ってくれるなら、すきだよ、愛してるよって言ってくれるなら、過去の辛い事なんてほんとにどうでもよかった。屁でもなかった。



ホテルを出て、ごはんを食べて、手を繋いで歩いてる時にきみが「あー風邪ひいたかもしれない、誰かさんに移された」って言った。その時わたしは風邪を引いてて、だいぶ咳をこじらせてて、「誰かさんってだれ?」って笑いながら聞いたら、きみは嬉しそうに「彼女」って言った。嬉しかった。きみの嬉しそうな笑顔の何倍もわたしは嬉しかったように思う。



最終的にわたしがその幸せ過ぎたセックスで病気移して一方的に別れられてしまったんだけども、結局そんなことで捨てる男ならそこで別れられてよかったじゃんと、みんなには言われたけれど、わたしはやっぱり、わたしが悪かったと思った。そりゃ反論したい気持ちはあったけどさ。こんな仕事してる事だって知ってるし、そもそもこんな仕事を通じてわたしたち出会ったわけだし、普通の人よりも性病にかかる確率なんてバカみたいに高い訳だし、かからない確証なんてないし、ちゃんとゴムだって着けてたし、性病にかかったことすらなかったんだから予兆なんて気づくはずなかったし、そんなことぐらいでって正直思ったよ。


でも結局性病になったことも、きみに「もう怖い」って否定されたことも、仲のいい先輩を信用していろいろ話してたのに店長にまで話持ってってたくさん責められたりとか、「仕事しにきてんだよね?男探しに来てるわけじゃないよね?」とか言われたりとか、いっぱいいっぱいだった。男探しに来てるわけねえだろ。風俗で遊ぶ男なんてホントにゴミだっつうの。風俗を遊びと考えて割り切ってる男だってみんな風俗嬢のことなんて馬鹿にしてるっつうの。ほんとにたまたま、ソリがあって、ああこの人わたしのこと大切にしてくれるなって思ってしまった人が、たまたまいただけだし。


いっぱいいっぱい過ぎて、きみとやっと連絡が取れたと思ったのにまた連絡が来なくなって、結局見たのかどうかはわからないけど、既読のつかないラインをずっと送り続けてた。ひどい言葉も言ったし、意味のわからないことをたくさん綴ったし、たくさん薬を飲んだし、リストカットもしたし、すきだよって怖いぐらいに伝えたし、それぐらいのことでってわたしは思ったけど彼にとってはそれぐらいのことでは済まない事だったのかもしれないし、それ以上にわたしのことがどうでもよかったのかもしれないし、心情は彼にしかわかり得ないことだけど、勿論わたしの非がでかかったんだろうなあ。


未練があるわけじゃないけど、どうにか出来なかったんだろうかと今でも思う。それって未練があるってことになるのかなあ。いや、言うて好きな人ができた時どうでもいいやって思えてたしな。違うな。



自分が吐いた煙草のにおいを嗅いでいると、今でもきみのことを思い出す。


パーラメントの匂い、わたしのマルボロの匂い。混ざってどっちの煙草の匂いなのかわからなくなる。すきだった。


どこにも行かないで欲しかった。

子どもが好きなきみと、子どもが好きなわたしで、幸せな家族になるんだろうななんて思ってた。浅はかだったなあ。たくさん電話して、たくさん好きって言って、たくさん好きって言ってもらえて、会いたいって言って、俺も会いたいって言ってもらえて、その時の思い出だけで生きていけそうなぐらい幸せだった。死にたくなってるけど。



話すの下手くそなのに、一生懸命自分のことを話そうとしてくれるきみのことがすきだった。やっぱりすきだった。