きみがいなくなったら あたしはどうなるかな





店で仲良かった子の家に泊まるつもりで23区の方まで出てきたんだけど、なんか泊まらない様な雰囲気で話が進んでいたのでその子のおうちで遊んでから実家に泊まることにして戻ってきた。



電車が15分くらい遅れていたみたいで、まあいつも金曜の遅い時間帯は混んでるんだけど、案の定すごく混んでて、邪魔にならない様に奥に詰めて扉の脇に立っていたんだけど、電車が停車するじゃない。扉が開くでしょ。そうすると降りる人がいるでしょ。邪魔にならない様に、一旦降りて、みんなが降りてからわたしも乗るでしょ。そしたらね、わたしが立ってた脇の所に、みんなが降りる時に避けることもせずに黙って突っ立ってたおじさんがそこに立ってたの。さっきまでわたしそこにいて、立ってたの。気を遣って降りたのに、わたしには誰も気遣ってくれないんだなと思った。次の次で降りようと思ってたから、なるべく扉の近くの席の前で立って吊革を掴んでた。そしたらわたしと同じ駅で降りる人がね、ぐいぐいわたしのことを押しながら降りようとしたの。わたしも降りるから、一緒の方向に退いたの。ほんとに人に対して気を遣ってるわたしの気持ちって、すごく無駄なものなんじゃないかと思ったら、悲しくなって、電車を降りる時にヒールをがつんってホームに叩きつける様にして降りた。雨が降ってたから急いでるみたいにして、がつがつ地面に怒って歩いた。器が小さいと思った。



車はこの時間通らないって分かってても信号が赤だから止まる。みんなはこんな雨降ってるのに信号なんか守って馬鹿じゃないの、とでも言うようにせかせかと信号を無視していく。わたしだけがじっと信号が青になるのを横断歩道の前で待ってた。馬鹿みたいだなと思った。



水たまりを避けながら、お気に入りのロングスカートの裾が雨に濡れて汚れないように、少し上げながら実家のマンションに向かった。マンションの入口でカップルが別れを惜しむように抱き合ってた。絶対あの二人のどちらかがエレベーターを乗ろうとしても閉まるボタンを連打してやろうと思った。乗り込んで、閉まるボタンを連打してたらおばあちゃんと若い女の人が乗ろうとしてきた。急いで開くボタンを押した。すみません、って頭を下げてくれた。さっきまで酷いことしようとしててごめんなさいって思った。




実家に帰ったら妹と妹の彼氏がいつも通りいて、楽しそうだった。笑ってる二人を見るのは好きなんだけど、わたしはなんかこの二人とどう接したらいいのか未だによく分かってない。距離感を掴めない。どこまで話して良くて、どこまでを話しちゃいけないのかがよくわからない。よくわからなくなって、テレビのリモコンをさすところにわたしのカッターがささってたから、これお姉ちゃんのリスカ用のカッター!あひゃひゃ!って笑ってたら苦笑いされた。うわぁ、今のは完全に間違えたわ、って思いつつ、後には引けなかったのでごめんなさいと謝った。恥ずかしくて死にたいと思った。



一度家を出てしまってるわけだから、お母さんの家にいても実家にいてもどこにも居場所が無いように思える。わたしはどこに座ってればいいんだろうと思う。どこにいてもここはわたしがいるところじゃないなと思ってしまう。苦しくてどうしようもなくなる。一人で生きていきたい。優しくされることも厳しくされることもない世界で生きていきたい。何も無いところに行きたい。親がこんなに良くしてくれているのにわたしは何やってんだろうって思う。不甲斐なさすぎる自分が嫌になる。親の脛を齧り潰す気かと思う、最低だ。最低すぎて話にならないしもういっそ死んでしまった方が楽だと思う。




メンヘラなのに陽キャのビッチを気取って全然誰のことも好きじゃないしセックスだけできればいいです、愛なんて必要無い、なんて思ってるフリしていたけど、結局は知らない男性の温もりであたたまった体を知ってる男の子の温もりで埋め尽くしたかっただけで、不安の捌け口にしていただけだった。それで安心を得たつもりでいた。


けど所詮メンヘラなので、パーソナルスペースにするりと入り込んできて、優しさと悪態を使い分けて恋人のように扱ってくれるきみのことをいとも簡単に好きになってしまうのだから、そんな事しなければよかったんだ。でもわたし、そんな事をしてなければ自分を保てなかったと思うし間違ってはなかったと思うけど、きみをその相手にするべきじゃなかった。



会えないから苦しいのか苦しいから会いたいのか、よくわからなくなってきた。わたしが人にきみの話をするとそんな男ろくでもないから辞めておけと言われるんだけど、それは間違いで、ろくでもないのはわたしの方なんだよな。彼は多分当初はわたしもセフレ関係を望んでいると勘違いしていて、お互い利害関係が一致していると思っているからこの様な状態を続けている訳であって、出会いがお店ではなく普通の出会いで、わたしが最初から好きだというのを分かりやすく出していればきみは無責任に抱いたりしなかったんだと思う。たまたまお互いに遊ぼうって思っていたのに、片方がそう思えなくなってしまっただけっていう話。だから悪いのはきみじゃなくてわたしなんだ。わたしなんかが好きになってごめん。BL商業漫画の帯に書いてある様なこと言っちゃった。そういうの、大好きだ!どこにも出口のない日々は突然に変わりそうもないけど。


会いたいなあと思う。会いたいと思う事は罪なんだろうか。きみに会ってる間は死ななくてもいいんじゃないかなと思ってしまう。明るい気持ちにはなれないけど、いつまでこうしていられるだろうって終わりを考えてしまうけど、きみの温もりが手元にある内は安心する事ができる。


でも結局、わたしが好意を寄せられて困る相手がいるように、彼にとってもわたしがそういう相手なんだと思うと、めちゃくちゃに悲しくなってくる。いつだかわたしが男の子とのデートの帰り際、告白されそうになって、そんなこと言われても返答に困るしマジで辞めてくれ!と言葉を遮った様に、彼も面倒だと思うし困るんだと思う。そもそものところわたしみたいな何の取り柄も無く悪い所を寄せ集めました!みたいなゴミの塊が、好きだと思う男の子にたくさん頭を撫でてもらえて、たくさんキスしてもらえて、たくさん体を触って、触らせてもらえるのだから、それだけで有難い話なのではないだろうか。それ以上を望むことが間違ってるんじゃないの?欲張りすぎているんじゃないの?



どこにも行けないしここにずっといることもできない。タイムリミットが刻々と迫る中でわたしはそれから辞退したい。もう誰とも何かを競ったりしたくないし、比べたくないし、何かに気を遣ったり我慢したり頑張ったりする事が疲れた。特に何も頑張れたことはないけど。それでも自分が自分でいることに疲れてしまった。わたしはきみがいなくなってもわたしでい続けるけど、きみはわたしがいなくなっても勿論きみでい続けると思う。どうしたらきみの心の隙間に置いてもらえるんだろう。どうしたらきみの心がわたしでいっぱいになるんだろう。問いかけるみたいに言ったけど、別に全然、そんな未来が来ないってこともわかってる。