自分が思うより 恋をしていたあなたに あれから思うように 息ができない




夏だった、と思う。



当時リフレ店でバイトしていたわたしは、メイドさんだったし、女子高生だった。コスプレをして、男の人の体に跨ってギリギリのラインでマッサージを施すお店だ。お店は出張型店舗で、事務所から近いレンタルルームを借りて、そこの一室で施術をしていた。マッサージだけじゃなくて、当時流行っていたおさんぽだったり、添い寝のサービスもあった。



だけど、結局は個室に女と男二人いれば、そういう事なしなんていうのはほぼ有り得ない訳で、名目上は禁止されていたが裏オプションというのは暗黙の了解だったんだと思う。2度目に付いたお客さんにコンプラを握らされて、体をたくさん触られた。わたしはその時、うわ、間違えたって思ってた。


それが初めて扱いた時だったと思う。わたしの初めては基本的に、綺麗な思い出ではない。


初めての彼氏とは少し触れるぐらいのソフトなキスしかしたことがなかった。体に触れ合うなんて、何の経験もない、エロゲやエロ漫画で蓄えた知識しかない高校一年生だったわたしたちには恥ずかしくて到底出来る事じゃなくて、わたしの初めては殆ど、名前も素性も知らないおじさん達だった。



わたしはその店で処女を失くした。

相手は左手の薬指に銀色の指輪が光る、有り得ないぐらいコンプラが小さいおじさんだった。わたしは非常に自分に自信がなくて、こんな高いお金払ってもらっているのにセックスしないなんて最低じゃないか?セックスなしのわたしに価値なんてないんじゃないのか?って思ってしまって、結構無理やりだったけれど、それを受け入れてしまった。気持ち悪かったけど、痛くはなかった。小さすぎたんだと思った。消しゴムでも入れているような気分だった。



京浜東北線に乗って泣きながら帰った。舐められてベトベトになった汚い体を早く洗い流したいと思っていた。そんなお店だと思っていなかったのは本当だけど、そんなお店でも辞めなかったのはわたしだ。誰を責める権利もないし、別にそんな気も更々無い。むしろ責めるべきはその選択をした愚かな自分だし、悲しむのも筋違いなのかもしれない。でも辛かったんだから仕方ない。原因が自分自身であっても、泣くぐらい許して欲しい。



よくこの話をすると可哀想って言われる。すきなひとにも可哀想って言われた。でも全然可哀想なんかじゃない。どうせいつか失くすものならいつ失くしたって同じだし、その相手が誰であろうと別に関係ないな、と最近思うようになった。ちょっと前まではコンプレックスだったけど、もうどうでもいい。一度汚れてしまったら、やっぱりそれまでだ。




何が悪なんだろうと思う。何が悪で、何が正しいのか、わたしにはわからない。どう生きたら正解なのか、わたしには全く検討もつかない。




自分のことも助けられないくせに、誰かのことを助けたいと思ってしまっている。わたしが助けなくてはいけないんだという使命感に駆られている。自分のこともちゃんとできないくせに。勝手に自分で自分の周りに重荷を増やして身動き取れなくなってるだけなんだ、わたしは。おかしな話だった。



もう笑って誤魔化したくない。苦しい事を無かったことにできない。見て見ぬ振りはできない。わたしはわたしの苦しくて消えてしまいたくなる様な事や、恥ずかしい事と向き合わないといけない。そうしないと前に進めない。こんな言い方したけど、本当に前に進みたいのかと言われればそうではないような気がするけど、今は今の苦しみから逃れて、自分が背負ったものを全部下ろしてしまいたい。



申し訳ないと思った。

でも死ぬ勇気が無いうちは、わたしはまだみっともなくても生きなければならないんだと思った。




過去を清算して、きみとの関係も清算して、わたしは汚れた自分とさよならをしたい。でもね、わたしはわたしだから、汚れた自分ともさよなら出来なければ、綺麗な自分になる事も一生出来ないんだ。これが大人になる事だと言い聞かせれば、少しは楽になれるかもしれない。楽にはならないか。それでもどうしてか今のままではいれない。変わることもできない。わたしは変わりたいんだろうか。どうしたいんだろうか。もうどうなりたいのかすらわからなくなった。助かりたいのかどうかもわからなくなった。今すぐわたしの頬を叩いてほしい。叱ってほしい。苦しくて仕方がない。簡単に死ねれば楽だったのに、全然捨てられないものがある。死んだら関係ないのに、自分が死んでも気にかかるものがある。わたしが死んだらどうなるんだろうって気にしてしまうものがある。死ねない。死ねないのは苦しい。だけど自分が死んだ後の世界を想像すると怖くて一歩を踏み出せない。ずっとループしている。




戻れないけど、わたしはステージに立って、人の前で歌って演奏することがすきだった。みんなでスタジオに入って同じ曲を別々の音で一緒に作り上げるのが楽しかった。生きてるなと思った。その夢を捨ててから終わっていたのかもしれない。屈強なメンタルがあれば少し違ったのかもしれない。もう少し強かったら、こうはなってなかったかもしれない。過去を悔やんでも仕方がないけど。これからどうするかなんだけど。わたしはただ歌っていたかっただけなのに、なんでこうもいろんなものに邪魔されてしまったんだろう。いつも選択を間違えている。自分に降りかかる事だけではなくて、周りの人に降りかかる事も、全ての悪いことがわたしのせいだと思える。なんか申し訳なくなってきた。



簡単に人の信用を裏切るし、信頼してくれた相手の気持ちはどうなるんだろう。どうしようもなくて本当にどうしようもない。なんでこんなんなんだろう。