君の匂い 君の感触 冷たくて涙が出る





実家のマンション10階から柵を越えて見下ろした所、少し大きな道路がある。


デリの時のお客さんで仲のよかった人と遊んで、お小遣いを貰って、終電の2つ前の電車で一緒に帰ってきて、柵から乗り出して道路を見下ろした。



落ちたら死ぬなあっていつも思う。落ちないけど。


走り去る車を人間の煩悩の数数えたら家に帰ろうと思った。数えてる内に馬鹿馬鹿しくなって飛び降りる勇気が漲ってくるのではと思った。うちのマンションは、昔10階から飛び降り自殺した人がいるから、一応事故物件ってことになってる。わたしまで死んだら、ここに住もうと思う人が物凄く減るのかなって思った。今日も飛び降りる事は出来なかった。でもよく考えたら、わたしが飛び降り自殺なんてしたら家族もこの家に住めなくなっちゃうかもしれないから、飛び降りなくてよかった。



久しぶりにおじさんに会った。

一緒にカラオケに行って、当たり障りない曲と、おじさんは化物語の戦場ヶ原さんが好きだから、リクエストでstaple stableを歌った。


あと最後に履歴を見ながら歌う曲を考えてたら、絢香の三日月があったから、歌ってって言われて歌った。褒められた。カラオケを出てからも三日月すごいよかったよってずっと言ってた。でもわたしはほんとは、絢香があんまり好きじゃなかった。




その後ホテルへ行った。


いい歌を聞かせてくれたからってお小遣いを握らせてくれた。


足りない?って聞かれたけど、反射的に全然足ります!って嘘を吐いた。いい人でいたがるの、わたしの悪い所だと思う。ほんとは全然足りないけど、でも、この人からお金を毟り取るような事はしたくなかった。価値のない女に成り下がったという事をひしひしと痛感して、悲しくなった。そうですね、価値なんて一欠片もないね。





でもおじさんはいい人だから、好きだ。

わたしの昔の話を聞いて頭を撫でてくれる。全然嬉しくはないんだけど、ありがとうとは思う。ありがとう。




後ろから入れられている時に、おじさんにお尻を叩かれるのは好き?って聞かれたけど、自分の性癖は好きな人にしか教えたくないってなんか意味の分からない意地を張ってしまって、分からないですって言った。叩かれても多分全然嬉しくないと思ったんだろうな。




繋がっておじさんの冷たい肩に顎を乗せて背中へ手を回しているとき、きみの湿った柔らかい肌を思い出していた。


きみの肩へ顎を乗せて、爪が減り込むんじゃないかなって思うぐらい強く抱き締めている時のことを思い出していた。


そしたら泣きそうになってしまって、無感情になれって、何も考えるなって心の中でぐるぐる呟いていた。どんどん自分が壊れていく感じがした。終わってるな、って思った。それでもわたしはまだきみのことがすきだった。




道路を見下ろしながら、クリープハイプを聞いていたら、出会ったばかりのきみとのやり取りを思い出した。


きみに好きなバンドを聞かれて、わたしはクリープハイプって答えた。きみはあの病んでるやつねって言った。わたしが好きなバンドを聞き返したら、きみはワンオクとかアクアかなって答えた。その時わたしは、この人のこと絶対好きにならないなって思ってた。




きみじゃない誰かの体温を感じると涙が出そうになるのに、きみの体温を感じていても涙が出そうになるのはなんでなんだろう。


きみのことを思い出しながらおじさんの背中を抱き締めた。きみじゃないってことはわかってた。きみが、わたしの事なんてこれっぽっちも想ってないってことも、わたしはわかってた。



きみはよくわたしに泣いてるの?って聞いてくるけど、きみが入れて気持ちよくなって抜いて出して一息吐いてる時に、わたしがきみのことをぎゅってしながら泣いてるの、知ってた?



帰り道何度もきみにラインを送ろうとしたんだけど、この時間に連絡するのは迷惑かな、とか、会いたいって言うのは気持ち悪いかな、とか、遊びたいって言うのも面倒臭がられるかな、とか、いろいろ考えてしまって、もうどうせいつか終わってしまうんだから嫌われてもいいや、送ってしまおう、とも思ったんだけど、やっぱり何も送れなかった。